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じゃない昔話4:鬼退治しない「新ももたろう」

昔話を新しく書き換えてみました。
どちらがいいという話ではなく、「価値観にとらわれなくていい」ということを感じてもらえるとうれしいです。
 

元のお話

ももたろう
おじいさんは山へ芝刈りに、おばあさんは川に洗濯に行きました。
おばあさんが川で洗濯をしていると、川上から大きな桃が流れてきたので、家に持ち帰ったのでした。
桃を切ると、中から元気な男の子ができてきたので、桃太郎と名付け、大切に育てました。
ある日のこと、近くの村で鬼が悪さをしていると聞いた桃太郎は、鬼退治に向かうことにしました。おばあさんは、おいしいきび団子を持たせてくれました。
鬼ヶ島に向かう道中で、きび団子をあげることで、イヌ、サル、キジを家来にしました。
鬼ヶ島につくと、たくさんの鬼がいたので退治して、金銀財宝を村に持って帰りましたとさ。

おしまい。

とってもいいお話ですね。

でも…

いつまで、奪い合うんだろう…
と思う人がいてもいい。

そこで…
 

新:ももたろう

おじいさんは山へ芝刈りに、おばあさんは川に洗濯に行きました。
 
おばあさんが川で洗濯をしていると、川上から大きな桃がドンブラコ、ドンブラコと流れてきました。おばあさんは、その桃を家に持ち帰ったのでした。
 
おばあさんが桃を切ると、中から元気な男の子が出てきたのです!
おじいさんとおばあさんは、この子に「桃太郎」と名付け、大切に育てました。
 

鬼退治に!

桃太郎はすくすくと大きくなり、村で一番の力持ちになった頃、村では、あるウワサが広まっていました。
 
この村から遠く離れた島に、鬼たちが住み着いていて、金銀財宝や食料を奪ったり、畑を荒らすなど、近くの村人たちに悪さをしてるというのです。
 
村一番の力持ちに育った桃太郎は、「僕がなんとかしよう!」と思い立ち、鬼たちが住む鬼ヶ島に行くことにしました。
 
村のみんなも応援してくれて、おじいさんとおばあさんは、日本一のきびだんごを作ってくれたり、村の人たちも着物や刀などを用意してくれたのです。
 

仲間ができる!

 
桃太郎が鬼ヶ島に向かっていると、道中で、キジ、サル、イヌの3匹の動物たちと出会いました。

みんな、桃太郎に「どこに行くのか?」と聞いてきたので、桃太郎が「鬼の悪さを止めるために、鬼ヶ島に向かってる」という話をすると、3匹の動物たちも「僕も、鬼をなんとかしなくてはと思っていたけど、力がないから1人じゃできないなと迷っていた。ぜひ、僕も連れて行って!」と仲間になってくれたのです。
 
とても厳しい道中ですが、「村に平和を取り戻したい!」という想いが一致しているので、キジもサルもイヌも文句一つ言いません。
給料は「きびだんご」だけだし、命がけの過酷な仕事なのに、「休みをくれ!」とか、「残業が…」とか、「給料が…」とか言うこともなく、気持ちを一つにして行動をしてくれたのです。
桃太郎は夢を語ることで、「自分の夢」を「みんなの夢」にしました。そして、3匹の動物たちは「やらされている」ではなく「やりたいこと」をしているので、お互いにいい関係が築けたのです。
 
 

俺は、戦わない。

  
そうしていると、鬼ヶ島が近づいてきました。あとは、船で渡るだけで、鬼がたくさんいる鬼ヶ島に着きます。
 
船に乗る前に、桃太郎は持っていた刀を木陰に隠してしまいました。
サルが心配に思って「刀は持っていかないの?鬼と戦えないよ!」と聞きました。
 
すると、桃太郎は「鬼とは戦わないよ。こちらが武器をもってると、鬼もケンカ腰になるだろう。鬼には鬼の事情があると思うから、まずは、ゆっくり話してみようと思うんだ」と答えました。
 
「え!そうなの!大丈夫?」とキジも心配しています。
 
「大丈夫だよ。どちらが悪いかも分からないのに、一方的に鬼を退治するのも良くないと思うんだ。それに、暴力でねじ伏せると、また相手だって復讐をしようと思うだろ。そうなると、今度は、こちらが退治されちゃうかもしれない。お互いに憎しみ合っていたら、いつまでもケンカは終わらないよ」
 
「それも分かるけど、鬼は話ができないかもよ…。なんかあったら僕が助けるね!」とイヌは鼻息を荒くしています。
 
そして、いよいよ鬼ヶ島に到着しました。
 
鬼たちは、みんなで焚き火を囲んで、ご飯を食べているところでした。お母さん鬼、こども鬼もいます。
  
桃太郎たちが近づくと、鬼たちは警戒して、こん棒を片手に立ち上がりました。
とっても大きな鬼たちです。ケンカをすれば、お互いに大きな怪我をすることでしょう。
 

一緒に飲もう!

そこで、桃太郎は「今日は、ケンカをしにきたんじゃないんだ。ゆっくりお話をしたい!ほら、刀だって持っていないだろう」と鬼に話しかけます。
 
びっくりした顔をする鬼たちの中から、ひときわ大きな鬼が桃太郎に近づいてきました。
 
「その言葉を待っていたんだ。ゆっくり話そう!」
 
「鬼さん、ありがとう!」
 
そして、鬼さんは焚き火が気持ちいい場所に案内してくれ、おいしい料理とお酒を用意してくれました。
 
「ねぇ、鬼さんってさ、いつからここに住んでいるの?」
 
「そうだなー、もう1年くらいになるかな。俺たちは、住んでた国から、船で旅に出たんだよね。そしたら、嵐が来て、船がバラバラになっちゃってさ。なんとか、この島にたどり着いたって訳さ」
 
「そうなんだ!すごい大変だったんだね。死ななくてよかったね!」
 
「けどさ、そこからが大変で。俺たちは人間の事を知っていたんだけど、人間は俺たちのことを知らなかったみたいで、人間の村に行ってもさ、怖がって話もしてくれないんだよ。こっちは何もしてないのに暴力を振るわれたりもして…」
 
「そっか、それはごめんね。でも、なんで悪さをしちゃったの?」
 
「俺たちもご飯を食べないと死んじゃうでしょ。はじめは、村の人に分けてもらおうと思ってたんだけど、誰も何も分けてくれないから、しかたなく、畑になっていた野菜をもらったんだよね。そしたら、また怒られてさ。そして、どんどん仲が悪くなっちゃったの」
 
「お腹が空いてたんだね」
 
「俺たちは、仲良くしたいんだけどさ、話も聞いてくれないから…。今日は、たくさん話を聞いてくれてありがとうね!」
 
鬼さんが作ってくれた料理も美味しくて、鬼の国のこととか、いろいろな話で夜中まで盛り上がりました。

一緒に働こうよ

 
翌朝、桃太郎は鬼をつれて、村に戻ることにしました。
村への道中は、大きな鬼が肩車をしてくれたので、あっと言う間です。
 
村に入ると、おじいさんや村人たちがびっくりして「あぶない!鬼に襲われるぞ!」と慌てふためいています。
 
桃太郎が大きな声で「大丈夫だ!鬼と仲良くなった!心配はいらないから、広場に集まって欲しい!」と村人に呼びかけたのです。
 
怯えた目を向けながらも、みんなは広場に集まってくれました。そこで、桃太郎は、鬼たちを従えて、大きな声で話し始めます。
 
「みんな、よく聞いてほしい。これから、とっても大切な話をするね!」村人たちはシーンと耳を傾けています。
 
「これまで、鬼さんとケンカをしてきたけど、今日でケンカは終わりだ!実は、鬼さんもケンカをしたい訳でも、悪さをしたい訳でもない。ただ、お腹が空いていただけなんだよ!」
 
村人たちは、ザワザワしはじめました。
 
「だから、これからは仲良くやっていこうと思う。たしかに、鬼さんは僕たちとは違う。見慣れないから、鬼さんのことを怖く思うかもしれないけど、全然そんなことないんだ。僕は、一緒にご飯を食べて、一緒に寝たけど、本当にいい優しくしてくれたんだよ!」
 
「桃太郎がそこまで言うのなら、僕たちも鬼さんを信じることにするよ」と村人たちも心を開いてくれました。
 
「ありがとう!鬼さんは、体が大きいし力も強いから、みんなの力になってくれるはずだ。これからは、お互いの個性を活かして、支え合って生きていこう!」
 
そこから、鬼さんと村人たちは一緒に暮らすことになったのです。
 
畑作業や、家の修理、橋を作るなどの力仕事は鬼さんの役割です。
村人と鬼さんと、お互いに得意なことを活かして、みんなで仲良く村を盛り上げていったのでした。

(おしまい)
 
 

ひとことメッセージ

 
 
この話には、たくさんのメッセージが込められています。
 
『「自分の夢」を「みんなの夢」にする大切さ』です。
もし、桃太郎が自分のためだけに行動をしていたら、おじいさんも、村人も、3匹の動物たちも仲間になっていないはず。
周りの人も一緒に、幸せになっていくことを考えるといいですよね。
 

今日の質問:あなたが幸せになることで、喜んでくれる人がどんな人ですか?

 
 
そして『どちらが「正しいか」で争うのではなく、お互いの価値観や意見を受け止め、認め合うことの大切さ』もあります。
かつての村人と鬼のように、お互いを受け止め合うこともなく、お互いの意見を主張しあうだけでは、いつまでも問題は解決しません。
どちらが正しいのかで物事を図ると、ケンカになります。なぜなら、どちらも正しいから。
そうではなく、お互いに心を開き、相手の価値観を受け止めてみることが大切です。
 

今日の質問:反対意見の良いところはどこですか?

 
最後に『人は違うからこそ意味があって、どんな人にも活躍できる場がある』ということです。
人とは大きく違う見た目をしている鬼さん。たしかに恐ろしく思うかもしれません。しかし、違う特長をもっているからこそ、お互いに助け合うこともできます。
僕たちの社会の中でも、違うことを良くないことだと捉え「みんなと一緒」でいることは安心かもしれませんが、同時に個性をなくしていることでもあります。
誰もが、自分の個性を活かし、その個性(違い)を敬い合い、やりたいと思えることでお互いに貢献しあえる社会になるといいなと感じています。
 

今日の質問:目の前の人を喜ばせるために、あなたに何ができますか?

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(文:河田真誠)
(絵:牛嶋浩美)

※この企画を本にして下さる出版社さんを探しています。河田真誠(info@cocoro-style.jp)まで連絡ください。



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