新みにくいアヒルの子
もとのお話
むかしむかし、一羽のアヒルのお母さんが巣(す)の中のタマゴをあたためていました。
やがてタマゴが一つずつ割れると、中からは黄色い色をしたかわいいひなたちが顔を出します。
ですが、巣の中で一番大きなタマゴだけが、なかなか生まれてきません。
しばらくたって、やっとタマゴを割って出てきたのは、たいそう体の大きなみにくいひなでした。
みにくいアヒルの子はどこへ行ってもいじめられ、つつかれて、かげ口をたたかれます。
はじめのうちはみにくいアヒルの子をかばっていたお母さんも、しまいには、
「本当にみにくい子。いっそ、どこか遠い所へ行ってくれたらねえ」
と、ため息をつくようになりました。
それを聞いたみにくいアヒルの子はいたたまれなくなって、みんなの前から逃げ出してしまいました。
あてもなく飛び出しましたが、どこに行ってもきらわれます。
アヒルの子は人目につかない場所を選んで眠り、起きればまた逃げ続けました。
季節はいつの間にか、秋になりました。
そんなある日、みにくいアヒルの子はこれまで見たこともないような、美しいものを目にしました。
それは、白鳥(はくちょう)のむれでした。
長くしなやかな首をのばし、まぶしいばかりの白いつばさをはばたいて、白鳥たちはあたたかい国へと飛んでいくところでした。
アヒルの子はあっけにとられて、その美しい烏たちが空のかなたへ去っていくのを見送っていました。
「あんな鳥になれたら、どんなにか幸せだろう。
いや、アヒルの仲間にさえ入れないくせに、そんな事を考えてどうするんだ」
冬が来て、沼には氷が張りはじめました。
アヒルの子はアシのしげみにじっとうずくまって、きびしい寒さをたえしのびました。
そのうちに、お日さまはしだいにあたたかさをまし、ヒバリが美しい声で歌いはじめます。
ついに、春が来たのです。
アヒルの子は体がうきうきしはじめると、つばさをはばたいてみました。
すると体が、浮くではありませんか。
「ああ、飛んだ、ぼくは飛べるようになったんだ」
アヒルは夢中ではばたくと、やがておほりにまいおりました。
その時、おほりにいた白鳥たちが、いっせいに近づいてきたのです。
「ああ、みにくいぼくを、殺しにきたんだ。
ぼくは殺されるんだ。
・・・でも、かまわない。
みんなからひどい目にあうより、あの美しい鳥に殺された方が、いくらましだかしれない。
さあ、ぼくを殺して!」
アヒルの子は、殺されるかくごをきめました。
しかし、そうではありません。
白鳥たちはアヒルの子の周りに集まると、やさしく口ばしでなでてくれたのです。
そして白鳥の1羽が、言いました。
「はじめまして、かわいい新人さん」
「えっ? 新人さん? かわいい? ぼくが?」
ビックリしたアヒルの子は、ふと水の上に目を落とすと、そこにうつっていたのは、もうみにくいアヒルの子ではありません。
まっ白に光りかがやく、あの白鳥だったのです。
冬の間に羽が抜けかわって、美しい白鳥に姿をかえていたのでした。
「あたらしい白鳥が、一番きれいだね」
みんなの声が、聞こえてきました。
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新みにくいアヒルの子
むかしむかし、あるところで、アヒルのお母さんがタマゴをあたためていました。
タマゴが割れると、中からは黄色いヒナたちが出てきます。
しかし、巣の中で一番大きなタマゴだけが、なかなか生まれてきません。
しばらくたって、やっとタマゴを割って出てきたのは、他のヒナとは違うヒナでした。
他のヒナは黄色いのに、そのヒナはグレー色。
それに、他のヒナよりも体が大きいのです。
他のアヒルたちは、そのヒナを見て「なんてみにくい子なんだろう」とウワサをしています。
しかし、アヒルのお母さんは、黄色いヒナもグレーのヒナもわけへだてなく、同じようにかわいがって育てました。
ある時、グレーのヒナが「僕は、グレーだし、体が大きいし、みにくい子なの?」とお母さんに聞いてきた時も、お母さんアヒルは、「そんなことないよ!グレーの毛はふさふさしてキレイだし、大きな体はたくましくてかっこいいよね!あー、本当に素敵な子だわ。愛してる!」と褒めてくれたのです。
だから、グレーのヒナは「みんなとは違うけど、それもかっこいいな!」と思いながら、大きく育っていきました。
ある日のこと
ふとグレーのヒナは、「僕とおなじように、グレー色で、体が大きなヒナって他にもいるのかな?」と気になりはじめました。
もし、同じようなヒナがいるなら、会って話してみたいと思ったのです。
そこで、少し旅をしてみることにしました。
外の世界を旅してみると、いろいろなヒナがいることがわかりました。
カラスのひなも、ハトのヒナも、ツバメのヒナも、スズメのヒナも、みんな大きなも色も違います。
しかし、自分と同じようにグレーで体の大きなヒナにはなかなか会えません。
やっぱり、僕って変わってるのかな…と不安な気持ちになりながらトボトボと道を歩いていると、向こうから、まったく同じようなヒナが歩いてきました。
「あ!僕と一緒だ!」お互いに目を丸くして、お互いを見つめ合いました。
毛の色も、体の大きさもそっくりなのです。
グレーのヒナは、仲間がいたことが嬉しくて、はしゃいでいるのですが、もう一匹のヒナはなんだか元気がありません。
「どうしたの?」と訪ねてみると
「君は、よく、そんなに元気でいられるね。僕はこの毛の色と体の大きさのせいで、みんなから「みにくい子」だって言われて。とうとう家族からも追い出されてしまって、行くあてもなく歩いていたんだよ。どこに行っても、こんなみにくい子とは関わりたくないって言われて、ずっと一人ぼっちだよ…」と悲しそうな顔をしています。
「え!そうなの?僕もみんなとは違う色や大きさだったけど、お母さんはかっこいい!って言ってくれて、いつも愛してくれてるよ!どこも行く所がないから、一緒にうちに帰ろうよ。きっと、うちのお母さんは喜んでくれるはずだよ!」
迷惑じゃないかな…と心配はしたけど、他に行くところもないので、ついていくことになりました。
その道中。
真っ白な白鳥たちが、湖に集まっていました。
それを見たグレーのヒナたちは、「あんなにキレイな鳥さんもいるんだね!大きくなったら、あんなふうになりたいねー」と話しながら通り過ぎました。
アヒルのお母さんのところに戻ると、やっぱり、お母さんは喜んで、仲間を迎え入れてくれました!
「あー、こんなにキレイで、強そうで、かっこいいヒナが二匹になるんて!とっても嬉しい!今日から一緒に暮らしましょうね!」
そして、2匹のグレーのヒナと、黄色のヒナたち、そして、アヒルのおかあさんは仲良く暮らしはじめて、しばらく経った頃、寒かった冬も終わり、少しづつ温かい日も増えてきて、草木たちも芽を出し始めました。
もうすっかり春です。
温かい日が続くにつれて、グレーのヒナは、どんどん毛が抜けていきました。
ある朝、川で顔を洗おうと覗き込んでみると、そこには真っ白で美しい鳥が映っていたのです。
その姿は、帰り道で見かけた、あのキレイな白鳥さんと同じです。
びっくりして、もう1匹のグレーのヒナのところに行くと、彼もまた真っ白でキレイな白鳥になっていました。
「どうしたんだろう?僕たち、真っ白になっちゃった…」
二匹で戸惑っていると、そこにアヒルのお母さんがやってきました。
「お母さん、僕たちはどうしたんだろう?」
「どうもしないわよ。あなたたちは、生まれた時から今も、とっても美しいわ。どうやら白鳥さんの卵が、私の巣の中に入っていたのね。でも、あなたが私のかわいい子どもであることにはなんの変わりもないわね。私の子どもたちは、みんなでキレイで美しい自慢の子よ!」とお母さんアヒルは喜んでいます。
グレーの毛色も好きだったけど、真っ白の毛もいいものです。
他のアヒルの子たちよりも大きかった体も、今ではすっかり美しい体になっています。
一方で、アヒルの子たちも、みんな大きくなって、真っ白なアヒルになり、白鳥よりは小さいものの、可愛らしい愛嬌のある姿になりました。
2匹の白鳥も、アヒルの子たちも、「みんなとは違ってたけど、それでよかったんだな。アヒルにはアヒルの、白鳥には白鳥の素敵な所があるもんね。
そういえば、カラスさんにも、ハトさんにも、ツバメさんやスズメさんにも、みんな良いところがあるもんね。他人と比べて、違うところを嘆くよりも、自分が持っているものを大切にしていけばよかったんだね!」って、お互いを褒め合いました。
2匹の白鳥は、「前のグレーの毛も、かっこよくて気に入ってたけど、白い毛もキレイでいいよね!」とニコニコしていましたとさ。
おしまい。